疥癬対策マニュアル|監修:九段坂病院 皮膚科顧問 大滝 倫子 先生・国立感染症研究所ハンセン病研究センター センター長 石井 則久 先生

マルホ株式会社

疥癬対策についてフローチャート形式で詳しくご紹介しています。

フローチャート

疥癬の診断

顕微鏡検査、ダーモスコピー検査

  • ヒゼンダニの虫体・虫卵が確認された
  • 疥癬トンネルが確認された

通常疥癬

疥癬の症状(通常疥癬)

散在する紅斑性小丘疹(腹部、胸部、腋窩、大腿内側に好発)

小豆大、赤褐色の結節(主に男性の外陰部に好発)

疥癬トンネル(手関節、手掌、指間、指側面などに好発)

非常に強いかゆみ

角化型疥癬

疥癬の症状(角化型疥癬(ノルウェー疥癬))

角質の増殖(灰色から黄白色で蛎殻(かきがら)様)

爪疥癬(爪白癬様の爪甲の角質増殖)

かゆみは一定ではない

紅皮症状態

疥癬の治療

内服剤

  • イベルメクチン

外用剤

  • イオウ剤、クロタミトン*1、安息香酸ベンジル*2、ペルメトリン*2、γ-BHC*3

*1:保険適応外(ただし、保医発第0921001号により適応外使用が審査上認められている)
*2:国内未承認
*3:2010年4月1日より化審法により使用が制限されています。詳しくは経済産業省HPをご覧ください。
    http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/h21kaisei_matome.html

疥癬の治療の注意点

外用剤は正常の皮膚を含め隙間なく塗布する(通常疥癬では首から下、角化型疥癬及び乳幼児では全身に)

ヒゼンダニの検出や疥癬トンネルの新生を治療継続の判断基準とし、皮膚症状を判断基準にしない

皮疹、かゆみがあるからといって殺ダニ効果のある薬剤での治療を継続しない

かゆみに対しては適宜、抗ヒスタミン剤/抗アレルギー剤を使用する

ヒゼンダニが検出される間は、ステロイド剤などの免疫抑制剤を使用しない

ヒゼンダニが検出されなくなれば、皮疹に対しステロイド剤を使用しても良い

疥癬の治癒判定

1~2週間隔で2回連続してヒゼンダニを検出できず、疥癬トンネルの新生がない場合に治癒と判定
ただし、再燃することがあるため、数ヵ月間はフォローアップが必要(特に高齢者)

疥癬の治療の見直し

本当に疥癬であるか確認する/かゆみや皮疹、結節だけが残り、治療を継続していないか確認する(ヒゼンダニの検出に努める)

治療期間や間隔は適切であるか確認する(ヒゼンダニのライフサイクル、虫卵の時期に薬剤を投与していないかなど)

ピンポン感染を起こしていないか確認する(患者-家族、患者-職員、患者-患者など)

爪疥癬に適切な対応をしているか確認する(爪にヒゼンダニがいないか、外用剤を爪に使用しているか、爪白癬と鑑別できているかなど)

通常疥癬

疥癬の感染予防対策(通常疥癬)

長時間、直接接触をしない

個室管理を必ず行う必要はない

入浴時、タオルなど肌に直接触れるものを共用しない

 

 

など

角化型疥癬

疥癬の感染予防対策(角化型疥癬(ノルウェー疥癬))

予防着、手袋の着用

原則、個室管理を行う

衣類、シーツなどは加熱処理を行う

殺虫剤を使用する

落屑を見逃さない、電気掃除機を丁寧にかける

など

臨床症状、顕微鏡検査やダーモスコピー検査でヒゼンダニの検出、疥癬患者との接触機会を含めた疫学的流行状況、の3項目を勘案して診断する。

特に顕微鏡検査やダーモスコピー検査などでヒゼンダニが検出されれば確定診断となる。

診断の際、通常疥癬か角化型疥癬かを鑑別することが大切である。

  • 通常疥癬では疥癬トンネル、新鮮な丘疹、結節などから検体を採取し観察する。
  • 角化型疥癬では増殖した角質を採取し観察する。
  • 採取には、眼科用のハサミ、メス、ピンセット、注射針(26G程度)などを用いる。
  • 検査はKOH法やクロラゾール・ブラックE染色を用いて行う。

  • ダーモスコープで皮膚を直接観察する。
  • ヒゼンダニは疥癬トンネルの先端に顎体部と前脚が黒褐色の三角形として、体部は白色~半透明の円形として確認される。

ヒゼンダニ
(写真提供:九段坂病院 皮膚科 大滝倫子先生)

疥癬の原因のダニである。卵から孵化して幼虫、幼虫は脱皮をして若虫、さらに脱皮して雄成虫もしくは雌成虫へと成長する。成虫は交尾を行い、雌成虫は産卵できるようになる。卵から雌成虫が産卵できるようになるまでのサイクル(ライフサイクル)は10~14日間とされている。

ヒゼンダニはヒトの体から離れると長くは生存できず、数時間で死滅すると推定されている。また、高熱や乾燥に弱く、50℃以上の環境下に10分以上曝露されると死滅することも確認されている。

  • 臍部を中心とした腹部、胸部、腋窩、大腿内側などに散在する紅斑性小丘疹。激しいかゆみを伴う。
  • 主に男性の外陰部に見られる小豆大、赤褐色の結節。頻度は低いがかゆみが非常に強く、疥癬が治った後もかゆみが残ることがある。
  • 手関節、手掌、指間、指側面などに好発する疥癬トンネル。疥癬に唯一特異的な線状の皮疹である。ヒゼンダニの検出率も他の症状よりはるかに高い。

丘疹

左手親指の付け根の疥癬トンネル

(写真提供:九段坂病院 皮膚科 大滝倫子先生)

  • 長時間の肌と肌との直接接触が主体。
  • 寝具を介して感染することもある。
  • 1~2ヵ月(高齢者では数ヵ月のこともある)の潜伏期間を経て発症する。

  • 灰色から黄白色でざらざらと厚く蛎殻(かきがら)様に重積した角質増殖が手・足、臀部、肘頭部、膝蓋部などに生じる。
  • 頭部も含めて全身に生じる。
  • 爪甲にも角質増殖を伴い、爪白癬様の症状を呈する。爪疥癬を生じることもある。
  • 全身の皮膚が潮紅し、紅皮症状態を呈することもある。
  • 免疫力の低下が原因で起こる。(全身状態の低下、ステロイド剤の誤用、高齢者など)
  • かゆみを感じる場合と感じない場合がある。

厚く角質増殖した手

角化型疥癬の顔

爪疥癬(写真提供:九段坂病院 皮膚科 大滝倫子先生)

  • 短時間の直接接触や間接接触などでも容易に感染する。
  • 角化型疥癬の患者から剥がれた角質(落屑)に含まれるヒゼンダニによっても感染が成立する。
  • 集団発生の原因になることが多い。
  • 一度に多数のヒゼンダニに曝露されるため、角化型疥癬から感染する場合には4~5日で通常疥癬として発症する。

原則的に確定診断がついた患者に投与する。その患者と接触の機会があり、疥癬様の症状がある方に予防的投与することがあるが、安易な予防的投与や大量使用は避けるべきである。

  • イベルメクチン
    約200μg/kgを空腹時に1回、水で内服する。投与に伴い、ヒゼンダニの死滅後のアレルギー反応として一過性のかゆみが生じることがある。2回目の投与は1週間後とする。3回目の投与は2週目にヒゼンダニが検出された場合に行う。

外用剤を用いて治療を行う場合には、正常の皮膚を含め隙間なく塗布することが大切である。必要に応じて繰り返し塗布するものや間隔をあけて塗布するものがあるので、使用方法をきちんと確認する。また、保険適応となっていない薬剤を使用する場合には、インフォームドコンセントを文書で取得する。

なお、外用剤による治療の詳細は疥癬診療ガイドライン(第2版)を参考にする。

  • イオウ剤
    塗布後24時間で洗い流す。5日間投与を1クールとし、3クール使用する。
  • クロタミトン*1
    塗布後24時間で洗い流す。5日間投与を1クールとし、必要に応じて繰り返す。
  • 安息香酸ベンジル*2
    ローションとして院内調製する製剤で、塗布後24時間で洗い流す。必要に応じて繰り返す。
  • ペルメトリン*2
    海外では5%クリーム剤として販売されている。
  • γ-BHC*3
    白色ワセリンに混和して院内調製する製剤で、塗布後6時間で洗い流す。原則として1週間に
    1回を1クールとし、1~2クール使用する。毒性が高まるため、クリームやローションに混和しない。

*1:保険適応外(ただし、保医発第0921001号により適応外使用が審査上認められている)
*2:国内未承認
*3:2010年4月1日より化審法により使用が制限されています。詳しくは経済産業省HPをご覧ください。
    http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/h21kaisei_matome.html

  • 外用剤は正常の皮膚を含め隙間なく塗布する(通常疥癬では首から下、角化型疥癬及び乳幼児では全身に)。皮疹のない部位を塗り残さないように気をつける。
  • ヒゼンダニの検出や疥癬トンネルの新生を治療継続の判断基準とし、皮膚症状のみで判断しない。
  • 皮疹、かゆみがあるからといって殺ダニ効果のある薬剤での治療を継続しない。
  • 殺ダニ効果のある薬剤にはかゆみに対する効果はないため、かゆみに対しては適宜、抗ヒスタミン剤/抗アレルギー剤を使用する。
  • ヒゼンダニが検出される間はステロイド剤などの免疫抑制剤を使用しない。免疫抑制作用により疥癬が悪化することが確認されている。
  • ヒゼンダニが検出されなくなれば、皮疹に対しステロイド剤を使用しても良い。

1~2週間隔で2回連続してヒゼンダニを検出できず、疥癬トンネルの新生がない場合に治癒と判定する。潜伏期間が1~2ヵ月間であるため、最終観察日より1ヵ月後に治癒判定を行うことが望ましい。ただし、再燃することがあるため、数ヵ月間はフォローアップが必要である(特に高齢者)。

効果が不十分な場合、薬剤の変更の前に適切な治療が実施されているかを確認することが大切である。治療の見直しを行った上で、薬剤の変更や併用を考えるべきである。

  • 本当に疥癬であるか/かゆみや皮疹、結節だけが残り、治療を継続していないか確認する。
    かゆみを訴える患者に対し、ヒゼンダニを確認することなく疥癬の治療をしていないか。疥癬が治癒しているのにヒゼンダニの存在を確認せず、疥癬の治療を続けていないか。
  • 治療期間や間隔は適切であるか確認する。
    ヒゼンダニのライフサイクルを考えて殺ダニ効果のある薬剤を使用しているか。
  • ピンポン感染を起こしていないか確認する。
    患者の治療が成功していても、他の患者や潜伏期間にある患者、家族などから再感染していないか。
  • 爪疥癬に適切な対応をしているか確認する。
    爪にヒゼンダニがいないか、外用剤を爪に使用しているか、爪白癬と鑑別できているかなどを確認する。

通常疥癬と角化型疥癬では感染力が大きく異なるため、対応も大きく異なる。

対応 通常疥癬 角化型疥癬
(ノルウェー疥癬)
隔離 個室への隔離
(隔離にあたっては患者の同意をとり、人権に配慮する)
不要
(徘徊患者や認知症患者では若干注意が必要)
  • 個室に隔離の上、治療を開始する。
  • 患者はベッド・寝具ごと移動する。
  • 関係者への周知徹底を図り、感染を拡大させないよう注意する。
  • 隔離期間は治療開始後
    1~2週間とする。
  • 隔離開始時と終了時に殺虫剤を散布する。
身体介護 手洗いの励行
(すべての感染症の予防の基本)
必要 必要
予防衣・手袋の着用 不要
  • 必要(隔離期間中のみ)
  • 使用後の予防衣・手袋は落屑が飛び散らないようにポリ袋などに入れる。
リネン類の管理 シーツ・寝具・衣類の交換 通常の方法 毎日交換
洗濯物の運搬時の注意
(ビニール袋か蓋つきの容器に入れて運ぶ)
必要
  • 落屑が飛び散らないようにビニール袋に入れ、ピレスロイド系殺虫剤を噴霧し24時間密閉する。
洗濯 通常の方法
  • 50℃、10分間熱処理後洗濯する。
  • 洗濯後に乾燥機を使用する。
居室・環境整備 患者がいた居室の殺虫剤散布 不要
  • 居室は2週間閉鎖するか、殺虫剤(ピレスロイド系)を1回だけ散布。
  • 角化型疥癬の患者と同室であった方のベッドなどは角化型疥癬患者と同様に扱う。
掃除 通常の方法
  • 落屑を残さないように電気掃除機で清掃する。
布団の消毒 不要
  • 治療終了時に1回だけ熱乾燥、またはピレスロイド系殺虫剤散布後に電気掃除機をかける。
車椅子・ストレッチャーは患者専用とする 不要
  • 隔離解除時に電気掃除機をかけるか、ピレスロイド系殺虫剤を散布。
患者の立ち回った場所への殺虫剤散布 不要
  • 1回だけ必要
入浴  
  • 肌と肌との接触を避ける。
  • タオルなど肌に直接触れるものの共用を避ける。
  • 入浴は最後とし、入浴後は浴槽や浴室の床や壁を洗い流す。
  • 脱衣所に電気掃除機をかける。
  • 患者についている角質はブラシなどを使いしっかり落とす(例えばお湯をはった浴槽内でこするなど)。
予防的治療   複数の疥癬患者が発生した場合や集団発生の場合には、患者だけでなく、接触した可能性のある方にも治療を行うことが望ましいとされている。ただし、確定診断がついていない方への薬剤の投与は保険適応ではないため、インフォームドコンセントを取得して治療するなどの対応を行うことが望ましい。

  • 入院/入所時に皮膚状態を確認する。
  • 施設内で疥癬患者が確認された場合には、職員への周知、啓発を行う。また、他の入院/入所者に感染していないか確認し、感染の範囲を特定する。
  • 疥癬患者との接触状況を確認する。特に医療関係者は自分に感染していないかを確認する。
  • 角化型疥癬の患者が確認された場合には、予防的治療が必要となることがある。
  • 角化型疥癬の患者から剥がれた落屑に直接触れないように気をつける。

  • 家族に疥癬患者が確認された場合には、他の家族に感染していないか医師の診察を受け確認する。
  • 疥癬と診断された家族と衣類やタオルの共用を避ける。
  • 家族が角化型疥癬と診断された場合には、予防的治療が必要となることがある。